ご挨拶

日本病理学会東北支部長

岩手医科大学病理学第一講座

澤井 高志

 このたび日本病理学会東北・新潟支部の支部長に就任いたしました。支部長としては、若狭治毅先生、手塚文明先生についで3代目であり、二人の先生の御努力により支部の活動もこの間ますます活発化してまいりました。

 

 現在、病理学会は内外に様々な課題を抱えており、それも病理学全体に関連するものから、支部の問題に至るまで多岐に及んでおり、病理学の将来も決して明るいと言える状況ではありません。

 

 診断業務においては包括医療の動向と病理部門の収入の問題、教育面では、コアカリキュラム、Computer Based Test (CBT) の導入、研修医制度におけるCPCについての病理の役割、さらに、最近の病院評価における研究業績は大学だけの問題ではありません。診断面においても従来の顕微鏡的組織像を重視した病理診断から最近は遺伝子分析を加えた総合的な診断が求められるようになってきました。このよう多様化した問題を抱えるなかで、病理学会や会員がどのように対処していくべきかということを考えると、支部長として大きな責任を感じざるをえません。

 

 これらの問題に対処するために当面は以下の3点を考えたいと思います。

1) 人材の確保と育成、2) 情報の交換、3) 業務の客観的評価の把握をあげたいと思います。


 現在の状況では、将来の病理の診断業務や教育、研究を担う後継者の問題が深刻です。特に今年度から研修医制度が開始され、殆どの施設ではストレートに病理学教室に入ってくる卒業生はいなくなりました。基礎系を専攻する場合は、入局するにしても卒後2年目からということになります。学生時代に病理学を志ざそうと思っている人も、卒後2年間その気持ちを持ち続けることができるかどうか不確定です。この点、学生時代に病理学に対する強いインパクトを与えて病理に引きつけるとともに卒後もその気持を持ち続けてもらう方策を講じることが必要です。また、それと同時に地域として若い病理医の育成を図ることも大きなテーマです。


 情報交換については、大学間、大学と病院間で情報交換が自由に行われるのが理想です。このなかで、最近、病理医を生み出す元である大学医学部の病理学の講義の形式、内容の変貌とその実情については、市中の病理医の先生方にも是非知っておいて欲しいと思います。特にコアカリキュラムが定着することによって「病態」という言葉が増える一方、従来の「病理組織像」に関する講義内容は時間とともに減少しております。このようななかでは、単に病理診断の重要性を訴えるだけでは学生を引きつけることはできません。学生を支部の学術集会、あるいは夏の学校に参加させ、病理への関心をもってもらうとともに、夏期、冬期に他の病院や大学での病理の研修ができるような制度や交流も考えていく必要があります。


 最後に、業務については、病理医が関与する仕事量の客観的把握を進めていきたいと思います。これまで剖検料金の値上げ、遠隔病理診断(テレパソロジー)の保険点数化などに携わってきたなかで、厚労省からいつも求められてきたのが単純経費の他に仕事量や対象疾患を数値で表現することです。この点については、一地方の支部で解決できる内容ではありませんが、これも情報開示の一つとして民間の検査センターも含めた全施設を対象に調査をすべきだと思います。以上、いろいろ述べてまいりましたが、診断業務、研究、教育などすべての面で一大学や地域を越えてグローバル化しつつあるなかで、もっと社会と密接な関係を持ちつつ開かれた病理学の発展に尽くしてまいりたいと思っております。