私たちの基本方針

日本病理学会東北支部長 手塚 文明

 
 日本病理学会東北支部の皆さん、すべてが蘇る春の訪れとともに新たなチャレンジにご活躍のことと思います。
 去る2月15・16日に開催された第56回学術集会は、多くの皆さんの参会を得て、盛会裏に終えることができましたことを感謝申し上げます。 教育講演、症例発表、スライドセミナーの充実ぶりもさることながら、特にイブニング・セッション「討論:病理医、私のチャレンジ」での玉橋信彰先生と本山悌一先生のお話は会衆一同に水を打ったような感動を与えました。その余韻が今も私たちの胸に残り、病理医であることに大きな勇気と希望を感じさせてくれています。
 さて、過日に会員有志から「日本病理学会東北支部の活動方針が分からない」との御指摘がありましたので、この機会に私どもの見解を述べさせて戴くことにします。

1.基本方針について

(1)学術活動の推進と発展

 私たち病理医にとって最も大切な事柄は、自らの仕事が拠って立つべき「病理学」が医学全体の中で重要な学問として発展することです。病理学が医学の進歩に貢献する業績を産み出していかなければ、病理医の立場もその集合体である病理学会の将来も明るいものとは成りえません。私たちは、大学を中心とした基礎研究と一般病院でも可能な臨床研究とをうまく融合させながら、自分たちの学問である「病理学」を発展させていく努力を重ねる必要があります。私たちの東北支部が伝統的に継続している学術集会が、そのためのチャレンジでありプロモーションでありたいと考えています。
 近年のEBM時代においても「症例報告」の価値は決して軽視されるものでありません。私たちは、過去56回の学術集会を経て、実に1000例を超える貴重な症例を検討してきました。これらの症例を生きたものとして蘇らすために再利用可能な形で集積し再構築することが必要であり、ホームページ上に「症例データベース」を設けているのはこの目的に沿っています。
 学術活動においては常にチャレンジングな企画を試み、またその実績を蓄積して行く。このために、学術委員会の指導的な役割と会員諸兄の積極的な協力を願っている次第です。

(2)病理医後継者の発掘と育成

 将来に向かって病理学を発展させ、また病理医の役割を拡充してゆくためには、私たちの後継者を育てることが必須であります。近年、病理学を志す若い人が減少し、特に東北地区では病理医の高齢化が深刻化しつつあります。後継者の育成は一義的に大学人の任務でありますが、一般病院の病理医が果たし得る補完的な役割も大きいと考えられます。そう楽観視できない現実に直面して、学生の関心を惹きつける病理学教育について、もっと開かれた場での真剣な検討が望まれています。
 私たち東北支部が取り組んでいる学生交流事業は「夏の学校」です。これは私たち病理医が、東北地区の医学生を対象にして、病理学の興味と可能性を親しく語りかけようという企画です。第1回が、山川光徳教授と各大学から選出された実行委員および山形大学病理学教室の皆さんのお世話で、2002年夏に蔵王山麓で開催されました。ここには約35名の学生が参加し、また物心両面の援助を差しのべて下さった諸先輩有志の温かい励ましもあって、有意義な成果を挙げることができました。第2回は、榎本克彦教授(秋田大学)のお世話で、平成15年8月に田沢湖で開催される予定になっております。 山形で点った「学生との対話」の灯が絶えることなく、また一定の成果を挙げながら、継続されていくことを祈っている次第です。

(3)病理医の社会的認知の向上

 21世紀初頭は激しい医療再編の波を受けて、私たちの進路にも幾多の困難が立ちはだかっています。このような状況下で困難を打ち破るブレークスルーは、私たち病理医が社会的な認知と支持を拡大することであり、そのために自分の姿を市民・患者の前に現していく術を模索しなければならないように思います。
 病理医が広く社会に認知されない理由は、日常的な仕事の中に患者と直接する接点を持っていないためにほかなりません。今やインフォームド・コンセントの重視、カルテの開示、治療成績など診療指標の公開、医師に関する広告規制緩和など、患者中心の、患者が医師と医療機関を適正に選択できる体制作りが進行しています。私たち病理医は、この情勢を先取りして、「病理診断書を患者の手に渡そう!」といったキャンペーンを展開してはどうでしょうか?
 これを実現するに当たって、私たち病理医の勇気が必要とされています。いくつかの克服すべき課題が考えられます:第1に臨床医との摩擦・緊張に耐えることができるか? 第2に誤診の責任をまともに受け止めることができるか? 第3に患者の求める疑問に答えるだけの総合的な知識を有しているか? 大きな課題です、しかしながら、良質の医療を求める患者のニーズに応える方向こそ病理医の未来が懸かっているように思います。いつも西日本の後追いを余儀なくされている東北支部から、こうしたキャンペーンが始まってもよいのではないでしょうか。
 病理医の社会的認知向上のために、業務委員会から大胆な提案が打ち出されてくることを期待している次第です。

2.支部運営の環境整備について

(1)ホームページの拡充

 私たちの支部にはホームページが開設され「情報発信」と「記録集積」が行われていますが、ここに至った経緯を述べておきます。2001年2月の役員会でホームページ開設の方針を決定し、その具体化を山川光徳・学術委員長にお願いしました。そこで大きな働きをしてくださったのが木下雅恵さん(山形大学医学部学生)で、彼女の御尽力のおかげで2001年11月にホームページの開設が実現することになりました。私たちのホームページは彼女なしでは実現できなかったものであり、第56回総会で感謝状を差し上げた次第です。
 その後、タイムリーな情報発信と「症例データベース」の構築を目指し、サーバー管理を業者委託として、2002年11月にリニューアル・オープンしました。この移行に関して千場良司先生(坂総合病院)が努力してくださり、その後もホームページ管理委員として働いて戴いております。現在ホームページの内容は次第に整ってきています。しかし、まだ改善すべき事柄も多く、特に将来はメーリングリストを導入して相互交通的な情報交換を可能にする仕組みを作りたいと望んでいます。

(2)予算制の導入と計画的な財政運営

 このところホームページ管理の業者委託、「夏の学校」の開催、事務局経費のあり方などに関する検討を通して、私たちの支部活動を支える財政運営には計画制・予算制の導入が必要であると考えるようになりました。 会計幹事・長沼 廣先生の努力で、従来の決算を洗い直して問題点を抽出し、平成15年度予算案(単年度分)を作成することができました。その骨子は、第56回総会で御承認いただいたもので、次の通りです。
 ①適正かつ合理的な計画に基づいた財政運営に努める。
 ②学術集会参会費を1000円から2000円に値上げする。
 ③参会費および標本代を、学術集会主催者の収入ではなく、支部会計の収入とする。
 ④学術集会主催者に対しては定額を補助する(夏:670000円、冬:500000円)。
 ⑤事務的な経費節減と省力化を図るためホームページやメーリングリストの活用を広げる。
 私たちの支部活動が多様なものとなれば、それなりの支出が必要となります。支出に限度があることは勿論ですが、私どもは、萎縮路線は避けて、できるだけ「活発な萌芽」を守り育てて行きたいと念じています。 皆さんの御協力をお願いする次第です。


(2003年3月3日)